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マーケッター・リサーチャーのための心理学講座 第2回<認知心理学とはなにか(前編)>

マーケッター・リサーチャーのための心理学講座

「認知」とは何ですか?

佐野
「前回は心理学を俯瞰したわけですが、今回からは、認知心理学の話を伺おうと思います。まず、認知心理学でいう、『認知』というのはそもそもどういう意味なのかを教えてください。」
渡邊
「ものすごく俗な話から入ると、認知という言葉が世の中に知られるようになったのは、最近の話だと認知症ですね。私が認知心理学とか認知科学をやっていると言うとそういう研究だと思う人が結構います。認知という用語は、日常生活の中ではかなり特殊な用語として使われています。その認知症としての認知とか、あるいは自分の子供を認知するというような法律用語としての使われ方ですね。心理学的な認知とは、感覚とか知覚とか意識みたいなものの中間です。人間の情報処理を最初から順番に行くと、まず感覚があります。」
佐野
「皮膚の感覚とか、目で見るのも感覚ですね。」
渡邊
「そのあと知覚という段階を考えます。」
佐野
「感覚と知覚の間には何があるのですか。」
渡邊
「知覚は、指向性というか物があるというのが分かる。感覚は、光を感じるだけですね。それに対して反応すれば感覚ですね。」
佐野
「それは心の内面的な反応ですか。それとも身体的な反応ですか。」
渡邊
「身体的な反応でも、内面的な反応でもないです。ある意味ではカエルにも感覚はありますし、ハエにもあります。知覚は、どう見えるか、とか、いわゆるアウェアネスといった話になってくる訳です。光に対して細胞が反応しているとか、光があるということが分かる、というのが感覚なのですが、それが青いと感じるのが知覚です。そこまでは、むしろ生理反応とか脳の反応と機械的に結びついている。次に認知になると、もうちょっと情報をストアしたものと突き合わせて、これが何であるかが分かるということです。例えば脳の障害で、側頭葉の下側の一部がやられると、物があるということは分かるのだけれども、それが何であるか分からない『失認』という状況がおきます。失認の患者に時計や時計の絵を見せて、これを描き写してくださいといったら(その患者は)描き写すことができます。しかし、描き写した本人はそれが何なのかは分からない。これは認知の障害の一種です。見えているし、色も分かっているし、(時計が)ひとつのオブジェクトであるっていうことも分かっているけれども、それが何であるかというのは分からない。さらに感情だとか記憶だとか注意だとかの動的なシステムの動きの反映として現れたものを認知とみなします。日本語では認知なのですが、英語ではcognition。そのcognitionって何なのかといったときに、cognitiveのcogっていうのはcogito ergo sum(我思う、ゆえに我あり)っていうデカルトの言葉と同じですね。分かるとか理解するっという。perceptionっていうのは、受け取る感じ。perceiveは受け取るという意味なので受動的な感じだと思います。認知っていうのは、もう少し高次のものに使う。」
佐野
「例えば、感覚だと光を感じる、まぶしいみたいな感じで。知覚になると、青の光の波長を見て青だと思うと。そこに記憶は関係ないのですか。」
渡邊
「記憶は関係ないですね。記憶はなくても青は青に見えると思います。」
佐野
「それは(青い光を)『青』と言葉で表現出来るか出来ないかっていうだけの話なのですね。」
渡邊
「そうですね。その意味では共通するところはすごく大きいのだとは思います。認知になると、その人が今まで経験してきたものだとか記憶だとかと突き合わせるという話になる。例えば時計を今までに一度も見たことがない人はそれが時計だということは分からないですよね。時計という単語のあるなしに関わらず、たぶん何かということが分からない。そのレベルの違いです。青っていうのもおそらく青を見たことがない人も同じような感覚を得るだろうという意味でちょっと違う。」
佐野
「それはDNA的な問題で、青い光を見た人はみんな青だと思う、という話なのですか。」
渡邊
「そこまで言えるかどうかは分からないですが、同じような人間として同じような経験をしてきた人はおそらく同じような体験をシェアしているだろうっていう期待ですね。ある意味認知という言葉には、きっと人は皆それぞれちょっとずつ違うかもね、という期待は含まれていると思います。」

渡邊 克巳(わたなべ かつみ)

2001年 カリフォルニア工科大学(Caltech)計算科学-神経システム専攻博士課程修了[Ph.D]
2015年〜 早稲田大学理工学術院基幹理工学部表現工学科 教授
専門分野「人間の顕在的・潜在的過程の科学的解明、認知科学・心理学・脳神経科の境界領域への拡張、実社会への還元を視野に入れた応用研究」

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