マーケッター・リサーチャーのための心理学講座 第1回<心理学とはなにか>

blog_201505_003

完全なラディカル行動主義の方にすぐには戻ることはないだろう

佐野
「それはフェヒナーですかね。」
渡邊
「ウェーバーからフェヒナーという流れで、スティーブンスに至ります。」
佐野
「それはヴントとどう違うのですか。」
渡邊
「実証という考え方は同じだと思いますが、ヴントは基本的には二元論者なので、物理世界との対応はとりあえず置いておきます。フェヒナーはそれを関数として表しているところがポイントです。左右の項があって、左の項が心理量で右の項が物理量になっている。それがイコールで結ばれている状態によって、一元論的な議論をすることが可能になった。さらにその後、心理量を無視して行動までもっていくという、行動主義的な研究が出てきます。そこまでいくと主観はどうでもよくなる。人間の研究というのは、あくまで行動の研究であって主観の研究でないというわけです。」
佐野
「ワトソンとか?」
渡邊
「ソーンダイクやスキナーなども有名です。行動主義、結構ラディカルな発想なのですが、いわゆるマニフェストの形式としては、未だに結構正しいとも思います。つまり、人間はこうするとこう動きます、このボタンを押すとこう動きます。それだけを延々記述するのが心理学者のやるべきことであって、内部のプロセスがどうなっているかはどうでもいい。」
佐野
「ブラックボックスでいいということですか。」
渡邊
「ブラックボックスで構わない。それを延々やっていけば、そのうちすべてのものが記述できるでしょう、そういう発想だったわけです。でも、その後に、振り子の揺り戻しみたいなものだと思うのですけど、コンピュータの台頭によって情報処理という概念が出て来て、コンピュータのボタンを押すとなんか反応するのだけど、その中で色々やっているよね、人間も同じという話になって、じゃあその「プロセス」を調べてみようという訳で、認知心理学が出てくるわけです。ナイサーとかが始めと言われていて、現代につながってくる訳ですよね。色々揺れ動いてはいるのですが、おそらく完全なラディカル行動主義の方にすぐには戻ることはないだろうと思っています。」
佐野
「行動主義の方に戻ることがないっていうことは、行動主義、ブラックボックスから認知心理学っていうのが進化だったということなのでしょうか。」
渡邊
「進化かどうかは分からないですけど流行りです。それがなぜ出てきたかといったときに、それが流行る素地ができてきたということだと思うのですね。そこから行動主義の方に戻ることも当然可能で、やろうと思えば出来なくもないと思うのですけど、おそらくこれくらい神経科学が発達して主観と客観を結びつけるような方法論が色々出されている中で、もう一回人間が基本的にはオートマチックな機械で、ある刺激がきたらこう反応するという行動を学習しているだけだという風にはちょっと言いづらい。その意味では、今は面白い時代だと思います。心理学が何かといったときに、心の科学であって、心といったときにそれを行動と見るか主観的な体験と見るか、という話なのですが、私としては両方として見ていきたい。行動の説明をしたい、それと同時に主観も説明したい。自分がなぜこう感じているのかを説明するようなことをしないと、おそらく何の意味もないだろうなと思います。」
佐野
「人間の心の働きみたいなのをコンピュータで置き換えて説明しようというのが認知心理学と考えていいですか。」
渡邊
「認知心理学には、人間の心を情報処理として捉えましょうという考えが根底にあると思います。でも、人の心を調べる時に一つの方法でわかるっていうのはそもそも間違いです。心理学にいろんな名前があるのは、心っていろんな方法をとらないとわからないよね、というようなものの現れなのかなという気がしています。心理学というのは何かといった時に、方法論で定義されるものではなくて、もちろん「学」なので科学としての基本的な方法論は定義されるのですが、別に脳をスキャンしても良いですし、行動でやってもいいですし、「質問紙」でも、更に言えばと一回きりのインタビューでも問題ない、それがきちんとした方法論に基づいていればいいと思います。あることを知りたいといったときに、どの方法をとるかっていうのは色々あると思うのですけれど、どれがいいとかそういう話ではありません。だから心理学とは何かといったときに方法論を定義しない。『心に対して、そんなものは気のせいだとして無視しない』という態度だと思います。」

「よくある偽物の心理学を見破るひとつの構図としては、これが『絶対』だと言っているところだと思うのです。それは何らかの形でおかしなことをやっているという気がするのですね。やり方を明示して私はこう調べたらこうでしたと言うのが心理学であって、あなたの心はこうなっているから絶対こうです、と言ったらそれは心理学ではない。」