マーケッター・リサーチャーのための心理学講座 第1回<心理学とはなにか>

佐野
「心理学の最先端はどうなっているのですか?脳科学みたいな、コンピュータになぞらえて人間の心の動きを説明する認知心理学だとすると、それから今はどういうふうになっているのですか?」
渡邊
「現状は、心理学と脳科学を分けて考えることはできなくて、最先端となると脳科学の知見や神経学の知見になるとは思います。どれがすごいというのは選べないですが。それとは別に、個人的・主観的な体験を再度重要視する流もあります。例えばポジティブ心理学というものがあって、名前だけ聞くと怪しい感じもしますが、結構きちんと研究されていて、幸福感とか瞑想とかも真剣に研究されてきています。その意味では、方法論をきちんとしていれば、または背後に利権が絡んでなければ、たいていのことはきちんと研究することができる。日本で難しいのは利権が絡むことが多くて、資格ビジネスとかが絡むと、結構めんどうくさい話になりがちです。なぜなら科学や研究とはまた別のところで物事が決まってしまうので。」
佐野
「アメリカのチクセントミハイとかフロー体験とかが近い?」
渡邊
「チクセントミハイは元々社会学的な現象を調べていた人です。フロー体験というのは、あることをやっている時にハイになって時空間が歪んで気が付いたらもう夜だったというような快感と結びついた体験で、その研究をやっている方です。最近はフロー体験の脳科学的研究も出て来ています。脳の研究は万人を惹きつけるし、重要な事だと私は思う。ただ過信してはいけない。脳だけを調べて心がわかるか、という話ではNO。間違いなくそれはできない。」
佐野
「脳の構造を突き詰めていくと、全体の働きの結果心がわかる、というのはNOと。」
渡邊
「NOですね。脳の機能を調べてもNOでしょうね。脳だけを調べても全く意味が無いので。脳は心ではない。脳は脳です。」
佐野
「みんな心というのは脳にあると思っているのではないかと思っているのですけど。脳イコール心。心はどこにあるのですか、と聞かれたら、(頭は指して)ここにあるという。」
渡邊
「あー。ないですね。『脳だけ』にはないだろうな。重要な働きはしているだろうけど、脳だけが心ということはない。どういう例を挙げればいいかな。例えば脳が機能を停止すると意識も停止する。その意味ではそうなのだけど。基本、心というのは過程とかインタラクションの結果生まれてくるものであって…難しいな。」
佐野
「環境とのインタラクションですか?」
渡邊
「環境とのインタラクションもありますし、大きい話は言いたくないので、ここで結論は出しません。一つ確かなことは、経験や体験や心を調べる時に、脳科学はひとつの道具にすぎず、唯一の方法論ではなく、さらには目的でもないということです。前にも述べましたが、心理学とは何か、またはどういうのが心理学ではないか、という判断をする時に、『一つの方法で絶対わかる』と言い切るとすれば、それは心理学ではありません。」